「True Colors」
柳緑花紅

柳緑花紅 11

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「はじめまして。弟の七海です」


神崎さんの家に着いて、玄関で挨拶する。
駅まで神崎さんが迎えに来てくれたから、出迎えたのはお父さんと弟君二人。

神崎さんとお父さんは血が繋がってないのに、とても仲が良さそう。
中学生と小学生の弟君たちは、神崎さんを自然に「兄貴」「兄ちゃん」って呼んでてさ。

家とは大違いなんだって、少しだけ哀しくなった。

でも、そんなこと考えてちゃ、死んだお袋や頑張ってる兄貴に悪いじゃん?
実際、俺は甘やかしてもらったんだしさ。

すぐに気を取り直して、挨拶することに集中した。



「これ、つまらないものですが、よかったら召し上がってください」


ちゃんと、敬語使えてるよな?

このために、こっそり笙に特訓してもらったんだよね。
あいつ、普段は関西弁なのに、標準語も綺麗に喋るし、敬語もきちんと使えるんだ。
昇平が、よく注意されてるって聞いたから、恥ずかしかったけど、頭を下げてみた。
就活でも必要だから気をつけてはいたけど、シチュエーションが違うから、自信なくてさ。


『いいですよ。みんなには内緒にしときますね』


ニッコリ笑って、先回りして、そう言ってくれた。

こいつ、ほんとにスキルいっぱいあるよなぁ。

資格とかじゃなくてさ。社会的能力って言うの?
空気を読んだり、人の性格をすぐに把握したり、その場に合わせて喋り方変えたりさ。
コミュニケーションスキルが高いから、性別も年齢も関係なく、誰とでもスムーズに話してる。

俺も見習って、頑張らなきゃね。






リビングに通されて、コーヒー出してもらって。
お母さんは、思ってたよりも元気そうで、安心した。


「千秋さんが、きちんとしたお嬢さんで感心してたの。
 やっぱり、弟の七海君も、礼儀正しくて好青年ね」


神崎さんによく似た、穏やかで優しそうなお母さんが、ニコニコと言ってくれた。
お父さんもうんうんと頷いてて、俺、緊張しまくり。

それでも、話してるうちに、緊張はほぐれてきて、弟君やお父さんとサッカーの話なんかしちゃって。
俺、小学生の頃は、サッカー大好きだったからさ。
自分でやる余裕はなくても、テレビで中継とかよく見てたんだ。

偶然、同じチームのファンだったから、つい盛り上がって。
姉貴に肘でつつかれて、我に返った。


「お体の具合が良くないのに、つい、はしゃいでしまってすみません。
 長居してしまったようですね」


恐縮して謝ると、弟君たちが援護射撃してくれた。


「宏兄ちゃんはサッカー興味ないから、七海さんと話すの面白かった!
 また遊びに来てね」

「そうそう、そんなに謝らないで。お忙しいでしょうけど、またいらしてね」


お母さんにもそう言ってもらって、少しだけ安心。

でも、ここで気を抜いちゃダメ、きちんと言わなきゃ。
今日の最大の目的なんだもんな。



「姉を、どうかよろしくお願いします。
 ...兄がご挨拶にも伺えず、申し訳ありません」



頭を下げてから、そう言ったら、お父さんとお母さんが首を横に振った。

あれ、なんかマズった?

笙に特訓してもらったのに、やっちまったかな。
その割には、ニコニコしてらっしゃるよな??



「退院した日に、こっそりと挨拶にいらしたわ。
 地味な服装で、今の七海君みたいに、深々と頭を下げてね」

「ああ、テレビで見てるのとは、別人のようだった。
 千秋さんのことが、大事で心配で仕方ないんだって、ひしひしと伝わってきたよ」


驚いて姉貴を見ると、姉貴も知らなかったっぽい。
少し涙目になってて、俺まで泣きそう。



「兄同様、ご迷惑にならないよう、一生懸命に努めます。
 今日は、ご病気のところ、本当にありがとうございました」


なんとか、涙声にならずにそこまで挨拶して、姉貴と一緒に外へ出た。
神崎さんが駅まで車で送ってくれたから、必死で我慢。


お礼を言って、車のドアを閉めて、改札へ向かう。
姉貴が珍しく手を握ってきて、もう我慢しなくていいかなって気になった。




通行人から見たら、変なカップルだと思うだろう。
でも、姉貴と二人、涙ポロポロ零しながら、ホームで電車を待った。

何か話そうとすると、しゃくりあげそうになるから、二人とも黙ってた。
でも、おんなじこと思ってたのは間違いない。


兄貴が喪主だったお袋の葬式、施設行きの話し合い、兄貴の啖呵。

中退して働き出した兄貴、慣れない接客業、どう考えても向いてない芸能界デビュー。


兄貴が、どれだけ俺たちのことを大事にしてくれたか。

それが、身に沁みて、身に沁みて。


出来ちゃった婚でスキャンダルばっかなのに、神崎さんの家族は、非難めいたことは何も言わずにいてくれた。
兄貴がお忍びで挨拶に行った時に、ちゃんと人となりを見てくれたってことだよね。

それが、嬉しくて、ありがたくて。


しばらくは、ポロポロポロポロと、二人で泣いてた。
みっともないけどさ。




最寄り駅に到着して、やっと泣き止んで、普通に喋れるようになった。


「ねーちゃん、いい人見つけたよね」

「うん」


帰り着くまでの会話はそれだけだったけど、それで充分な気がした。




翌日には、大阪に戻らなきゃいけなかった。
二人で晩メシ食べて、たくさん兄貴の話をして。

それから、俺の進路について。


「高望みはしない。にーちゃんのお金やコネも当てにしない。
 心配だろうけど、頑張るから、見守ってくれるだけでいい。
 今は、自分と新しい家族のことだけ、考えてて」

「うん、あんたが大人になって、おねーちゃんは嬉しい。
 ちょっと淋しい気もするけど、それは単なるワガママ。
 神崎さんもご家族も、これから精神的に厳しいと思う。
 支えてあげられるように、頑張るからね」


吹っ切れた顔でそう言う姉貴は、いつもより倍以上、綺麗に見えた。


そして、また兄貴のことを思う。

好きでもない奥さん、可愛いと思えない息子。
世の中には、家庭を顧みない男なんて、掃いて捨てるほどいるんだろう。

でも、あんなに俺たちには優しい人が、妻と子に愛情を持てないのは、つらいんじゃないかな。
責任を取るって形でしか、家族になれないんだもんな。

散々、浮気してるのは、向こうから離婚を言い出すのを待ってるのかもしれない。
兄貴がいくら離婚したいって言っても、向こうは頑として、首を縦に振らないらしい。




「兄貴、どうなるのかな」


姉貴が不安にならないように、ベッドに入ってから、一人呟いてみた。
言葉にしたら、余計にわからなくなって、ほんとバカだって、後悔した。


なんとなく、烈の顔が見たくなって。
土産に、あいつの好きな芋ようかん買わなきゃって、ぼーっと考えてた。 



ああ、世話になったんだし、バンドの土産とは別に、笙にも何か買っていこう。
あいつ、甘いの苦手だから、せんべいとかかな。

姉貴に聞いたら、可愛い小物とか、女の子が喜ぶモノ教えてくれそうだけど...。
そーゆーのって、笙は絶対に喜ばない気がして、なんか笑えてきた。

笑ってると、今日は上手くいったんだって、気が楽になってきて。

同時に、俺がいくら心配したって、兄貴には負担でしかないのを思い出して。


なるようにしかならない。そう思えた。


あー、やっと眠れそう。











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