「True Colors」
柳緑花紅

柳緑花紅 10

 ←柳緑花紅 9 →柳緑花紅 11

九月初め。

神崎さんのお母さんが、抗ガン剤治療が一段落して、一時退院した。
式の前に、お見舞も兼ねて、きちんと挨拶したいって、姉貴に頼んでみた。


『神崎さんにも話してみるわ。喜ぶと思う。でも...』

「ん?何か都合が悪い?」

『ううん、なながそんなこと言い出すなんて、思ってもみなかった。
 大人になったんだね』

「俺、もう二十一だって!」


言いながら、実は思いつきもしなかったことは、黙ってようと思った。
要と笙に勧められたからだとは、恥ずかしくて言えない。




姉貴の結婚で秋の連休は帰るって、スタジオで話したら、みんなが喜んでくれてさ。
挨拶なんかはどうしたのかって質問されたから、相手に紹介されたことしかないって返事した。


「いくら簡略化してても、お兄さんは式に参列できひんのでしょ?
 当日いきなり相手の家族さんと会うんは、やりにくないですか?
 それに、再婚でも向こうはご家族が揃ってはるなら、お姉さん肩身狭いんちゃいますか。
 一度くらいは、お見舞い行って挨拶したら、ちゃんとしてるて評価上がると思いますよ」

「うちの母だったら、相手の親族ともつきあいたいって、淋しがると思う。
 再発してるなら、余計に子供さんのこと、心配してらっしゃるだろうし。
 息子の新しい家族になる人間のことは、なるべく知りたいって考えるんじゃないかなぁ」


その時、要のお袋さんも、年の初めに、乳ガンの手術してたって知った。
要は一人っ子の母子家庭だから、神崎さんの気持ちを想像したんだろうな。
少し、哀しそうな顔をして、勧めてきたんだ。

早期発見なら、五年再発しなければ、生存率は飛躍的に高くなる。
そんな話をしてくれて、三年で再発したことを、自分のことのように残念がってた。

大人だなと思ってる二人が、揃って同じようにアドバイスしてくる。
これって、素直に聞いたほうがいいよなって、すぐに納得した。



式に参列する用のスーツとは別に、少しだけカジュアルなのも一着作ってあった。
就職してからしばらくは、リクルートスーツでもいいけどさ。
オン・オフ両方で使えそうなのが一着あると便利だろって、昇平にアドバイスされたんだ。

うん、見舞いにはそれ着て行けばいいよな。




昇平が連れてってくれた店は、オーダー専門の高級店。
店長の河内さんは、仕立て職人さんでもある。

ここでスーツを作るのが、成功の証だった時代もあるそうだ。

バブルの時代にブランド旋風が吹き荒れ、弾けた後は不況で高級店は敬遠された。
一時期は、店を畳む寸前まで追い込まれたらしい。
そんな危機を乗り越えられたのは、河内さんの腕と常連客の踏ん張りだ。
シビアな商売人の世界でも、長年のつきあいで同志愛って存在するんだな。


昇平のお祖父さんもお父さんも、大勝負の商談では、必ずここで作ったスーツを着て行く。
基本的にはブリティッシュだけど、客のオーダーに合わせてイタリアンでもOK。
ただし、似合わないと思ったら、ビシっと注意してくるんだって。


連れて行かれた時、最初はすごく緊張した。
俺みたいな若造は、入っちゃいけない気がしたんだ。

でも、昇平は、子供の頃から、お祖父さんやお父さんにくっついてったから、慣れたもん。
店長さんに、「昇ちゃん」とか呼ばれてて、気軽に喋ってる。



「昇ちゃんもやけど、ほんま、最近の子ぉは、背ぇ高うて足長いなぁ」


採寸してもらってる時、河内さんが何度も言ってて、昇平の親父さんを思い出した。
俺よりも低いくらいだから、昇平となら10cmは違うだろう。

ただ、俺は昇平と違って、胸板薄いんだよね。
肩幅も少し狭いから、ブリティッシュ系がいいって、勧められた。

形も生地も、昇平と店長さんが話し合って決めてくれて、俺の出る幕なし。
仮縫いにも行って、ついこの前、完成したから引き取りに行ったとこなんだ。

初めてだからって、ネクタイを二本オマケしてくれた。
派手過ぎない、紺とグレーのレジメンタルと濃い臙脂に小さな黒いドット。
どちらのスーツにも使えそう。

嬉しくて、何度も何度も、お礼を言った。


「出世して、自分の金で作れるようになったら、またおいで」


学生どころか、普通のリーマンでも贅沢な店だ。
いつになるかわからないけど、次は自分の金で来れるように頑張ろうって思った。



引き取りには、昇平の都合が合わなくて、一人で行った。
講義が終わって、閉店ギリギリだった。
店を出た時、入れ替わりにすっごくカッコいい人が入ってきて、思わず息を飲んだ。


昇平より、もっと背が高くて、でも顔は小さい。
体を鍛えてるのが、スーツの上からでもわかるくらいで、ビシっと決まってる。
顔も整ってるだけじゃなく、鋭さと凄みがあってさ。

思わず、じっと見ちゃったら、目が合った。


「ああ、まだ客がいたんですか。申し訳ない」


聞こえてきたのは、関西弁じゃなかった。
圧倒されて頭を下げたら、店長さんが慌てて、目で帰れって合図してくる。


「失礼します」


帰り道、あの凄みは、もしかして...と考えて、背中がゾクッとした。


たださ、ほんっと、カッコよかったんだよ。
バリタチの俺でも、見惚れるくらいにさ。

年は俺よりは上だと思うんだけど、兄貴よりは下なのかなぁ。
ダークスーツは、あそこで仕立てたんだろうな。
量販店の安物じゃないのは、俺でもわかった。


閉店時間後に来たってことは、特別な客なんだろう。
俺が遅くなっちゃったから、鉢合わせしてしまって、河内さんに迷惑かけちゃったかも。

自分で謝る勇気がなくて、昇平に電話して頼んでみた。


『ああ、あそこは野上の幹部も来るらしいからな。
 ただ、あそこに出入りするクラスなら、カタギに迷惑かけるようなことはせん。
 せやから、心配はして要らん。一応、おっちゃんには、俺から謝っとくわ』


昇平の言葉で、またゾクッとして、頭が一杯になった。
見かけた男が、カッコよかったことや、関西弁じゃなかったことは、どっかに消えてた。





「へーっ、似合ってるじゃない!」


帰省した翌日。

スーツを着て、出かける準備を終えたら、姉貴の第一声がそれ。
前から後ろから、ちょっと離れたりして、何度も眺めては感心してる。

少し照れくさかったけど、心の中で昇平と店長さんに感謝した。
姉貴が喜んでくれるの、ほんとに嬉しかったんだ。

内定もらって帰りたかったな。まだなのが、残念で申し訳なかった。
でも、姉貴は焦るな、頑張れって、励ましてくれた。


「バイト代じゃ足りなくて、結局は兄貴からの金使っちゃったけどね」

「おにーちゃんは嬉しいと思うよ。あ、写メって送ろう!
 絶対に、喜ぶから!」




靴もスーツに合わせて、昇平が選んでくれた。
こっちは、さすがにオーダーじゃなかったけど、オーダーもやってる高級店。
シューフィッターの資格持ってる、河内さんの友達が経営してる。

中敷きとか入れて、履きやすくしてもらって、すごくありがたかった。
いろいろ、手入れの仕方も教えてもらってさ。
帰ってから、烈に説明したら、素直に感心してた。

烈は、体が小さいから、最低でもセミオーダーになる。
靴もなかなか合うのがないって、よくぼやいてる。

デパートで買ってたけど、自分もいいスーツと靴が欲しくなったらしくて、昇平にメールしてた。




笙が選んでくれた、老舗の京菓子を手土産に持って、姉貴と二人で出発。

ここできちんとしなきゃ、姉貴が恥をかく。
神崎さんはいい人だから、上手くいってほしいもんな。

企業面接と同じくらい緊張して、駅へと向かって歩いた。











にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ 3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ 3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ 3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ 3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ 3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ  3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ  3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ  3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ  3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ  3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【柳緑花紅 9】へ
  • 【柳緑花紅 11】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【柳緑花紅 9】へ
  • 【柳緑花紅 11】へ