「True Colors」
柳緑花紅

柳緑花紅 9

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今年の夏は、就活と合間に息抜きのライブで、ほとんどが埋まる。
いくらいい加減な俺でも、ケツに火がついてるって言うの?

周りも「まだ三年」じゃなくて、「もう三年」って感じだし。
三年の秋までに内定もらえれば、まぁ安泰ってこと。

昔は、四年の夏に動いてたって聞いて、なんてのんびりしてたんだって呆れたもんな。




『秋の連休、予定入れてる?』


そんな忙しい夏の日、姉貴から電話が来て、スケジュールを確かめた。
インターンシップは、夏休み期間だけだし、まだバンドで何かやるって決まってるわけじゃない。

あ、もしかして...?


「ねーちゃん、結婚するの?」


もう少し先だと思ったけど、なんとなくそんな気がしたんだ。
それにしては、声が暗いんだよな。

女って、結婚が決まったら、もっと嬉しそうなもんじゃないの?


『うん、神崎さんのお母さんがね、ご病気なの。
 それで、安心させたいって話になって、少し早めることに決めたの』

「え、そんなに重い病気なの?」

『三年前に、乳ガンの手術を受けてらしたんだけど、再発したって』



それ聞いて、お袋のこと思い出した。
お袋は、倒れてそのまんまだったよな。

神崎さんは、この三年、どんな思いで過ごしてたんだろう。
再発しないでほしいって、そればっかだったんじゃないかな。




「神崎さん、つらいよね......」

『うん、だから、お母さんのご希望は、なるべく叶えたいって。
 動ける内に、家族だけの式を挙げようって、話してるとこなの』

「にーちゃんは?」

『出ない方がいいだろうって言ってる。
 今、すごい人気だしね。記者さんがまとわりついてるし』

「俺、目一杯、写真とかビデオ撮ってもいい?
 兄貴に見せてやりたいしさ」

『ありがと。でも、それは、神崎さんのお友達が協力してくれるんだ。
 あんたは、式に出てくれるだけでいいの』

「えー、俺も何か役に立ちたいのにー」


姉貴がクスッと笑いを零した。
やっと、明るい雰囲気になって、少し気が軽くなる。


『身内だけの簡単な式だから、礼服じゃなくていいよ。
 ただし、きちんとしたスーツ着てよね。
 リクルートスーツだと、安っぽくなるからダメ』

「それなら任せて。そう言うの詳しい友達いるんだ。
 アドバイスもらって、ビシっと決めるからね!」

『ななは、おにーちゃんと体型似ててスタイルいいから、絶対にかっこよくなるね。
 楽しみにしてるから、就活、頑張って』

「ありがと。ねーちゃんは、仕事で大変だろうけど、無理しないで」


最後は、明るい声で電話は終わった。



電話しながら思ったんだ。俺、やっぱり、大阪に来て正解だったって。
ちょっと淋しいけど、姉貴の結婚を素直に祝えるようになってるしさ。
あのまま東京にいたら、シスコンこじらせて、淋しいどころの話じゃなかった気がする。

顔引きつらせて、無理して「おめでとう」って言ってたかも。
姉貴には見破られて、悲しい顔させてたな。




あ、昇平にメールしなきゃ。

あいつ、スーツにすごく詳しくて、センスあるからさ。
昇平に選んでもらえば、姉貴に恥かかさなくて済むよな。

雑誌とか見てても、自分に似合ってるかどうかって微妙じゃん?
スーツだけは、経験値が必要だって、リクルートスーツ着て会社行く度に思うんだよな。


メールすると、すぐに電話がかかってきた。



『お姉さんの式って、礼服じゃなくてええんか?』

「ああ、姉貴がガチガチじゃなくていいけど、安っぽいのはイヤだって」

『おう、任せとけ。お前なら、予算あるやろから、フルオーダーにするか?
 ええやつ一着あれば、便利やぞ』

「そうだな。一着作っておくのもいいかも。
 こういう時、お前がいてくれて助かる」

『こんな時だけかいっ。普段から頼りがいのあるツレやろが!』


声出して二人で笑った後に、ポツッと聞いてくる。


『お前、大丈夫?』

「ん、シスコンなのバレてるもんな。心配してくれて、ありがと。
 でも、東京離れたせいか、そこまでは淋しくなってないよ」

『ほな、ええけど。ま、せっかくやから、ビシっと決めよか。
 お姉さんに安心してもらわんとあかんしな』

「おう、頼んだぞ」


日にちと時間を決めて、電話を切った。

お祖父さんの代から懇意にしてる、オーダー専門の店があるらしい。
靴も合わせて買った方がいいって言われて、通帳記帳もしたくて銀行まで行った。



ATMで金を下ろして、通帳を見ると、生活費とは別に、五十万も入金されてた。
ここんとこ、生活費も絞ってるし、高いモノねだってないから、兄貴が気を回したんだと思う。

あ、そうか。

いくら学生でも、祝いにいくらかは包んだ方がいいんだよな。
出処は兄貴ってバレバレだけど、形くらいはさせてもらおう。
姉貴、友達は多いけど、親族で出席するのは、俺だけだしさ。


......兄貴、出席できないの、淋しいだろうな。

姉貴に迷惑かけるのがイヤだから、頭ではわかっててもさ。
姉貴と俺のために、イヤなことも苦手なことも、必死で頑張ってきたんだもんな。

俺たちの入学式や卒業式も出たがってたけど、事務所から止められてたし。




結婚して子どもができたからって、全然、人気は落ちてない。
それどころか、ドラマの視聴率はさらに高くなってて、バラエティにもしょっちゅう出てる。

奥さんの方も、相変わらずの人気で、生活感がないのに、ママさんタレントで引っ張りだこ。
春樹と二人で写ってる写真とか、兄貴と三人でハワイに行ったとか、嬉しそうに喋ってる。
...行ってても、向こうでは、完全に別行動してるっぽいけど。

この前、春樹が二歳になったって、パーティやったとかで、タレントさんのママ友を集めたらしい。
そんな話をしてても、空々しく聞こえて、なんとも言えない気持ちになる。



『春樹のことは、親としてできるだけのことはする。
 瞳が溺愛してるから、俺の出番はなさそうだけどね。
 経済的な不自由だけはさせないから、心配しなくていい』


俺の誕生日に電話かけてきて、兄貴はそう言った。

奥さんと春樹が住んでるマンションには、ほとんど帰ってない。
もうひとつのマンションには、いつも誰かが出入りしてる。

姉貴が結婚したら、あのマンションは契約更新せずに引き払う予定。


俺、帰るところ、なくなるんだな。


ノーマルだったら、嫁さんもらって、自分の家庭を作るって目標が立てられる。
でも、俺には、それは無理なんだよな。

兄貴も姉貴も結婚して、それぞれの家庭があって......。


わかってはいたつもりでも、先のこと考えたら、淋しさが押し寄せてくる。
今は、烈が一緒に住んでるから、あまり考えてなかったけど。

いつか、烈にパートナーでもできれば、一人になるんだよな、俺。
その時は、姉貴の時みたいに、笑って「おめでとう」って言わなきゃ。


そう考えた瞬間、胸がぎゅーっと締めつけられて。

情けないけど、淋しくて泣いちゃった。











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