「True Colors」
無色透明

無色透明 11

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甥っ子の名前は、春樹になったらしい。
兄貴が冬威だから、「冬の次は春」だってさ。

思いっきり夏生まれなのに。


『夫に似てほしいから、反対の季節は避けた』


退院してリポーターに囲まれて、赤ん坊を抱いた満面の笑顔で、女が誇らしげに語ってる。
兄貴は、その隣で作り笑顔で頷いててさ。

痛々しくて見てられなくて、すぐにテレビは消した。




誕生日の翌日、起きたら、もう兄貴はいなかった。

しばらく仕事続きで、休みはない。
顔出せる時には、ここに来るってメモが残してあった。

姉貴も会計士の夏期集中講座でいなくって、とりあえず用意してあった朝メシ食べた。
烈にメールして、昼間の約束を取り付けた。



それからは、ずっと昼間は烈と、晩メシからは姉貴と過ごしてる。
俺が晩メシ用意してると、姉貴がすっごく嬉しそうでさ。
簡単なものしか作れないけど、それでも美味しい美味しいって、食べてくれるんだ。



もらったチケットの夏フェスは、すごく楽しかった。
烈もフェスでSMSを見るのは初めてだったらしくて、珍しく興奮してたな。
こんなお祭りノリで、何組もミュージシャンが集まるのって、やっぱ特別な感じするしさ。


兄貴が話してくれたけど、これよりもっと大規模なのが、来年から始まるらしい。
もう、出演のオファーが来てるらしくて、たぶん、SMSにも行くんじゃないかって。

会場が五つもあって、二日間で何十組も出演するような、本当に大きなロックフェス。
アイドル系も大物外タレも来るような、夢のようなお祭り。

そこで兄貴が歌うのかと思うと、すっごくワクワクする。
絶対に、見てみたい。
来年は、こっそりチケット手に入れて行ってみようかな。
バレないように、慎重にしないとダメだけどさ。






「そろそろ限界」


フェスの帰りに、烈が呟いた。
一度自由を味わってしまったら、母親にまとわりつかれるのは、どれだけ苦痛だろう。

大阪に戻りたいけど、一人ではマズいと思ってるのは、なんとなく感じる。
あのマンションは兄貴が用意してくれたから、いくら烈でも遠慮があるんだと思う。


「大阪、戻ろうか」


盆休みの大移動も終わったし、兄貴も姉貴も忙しい。
残ってても、あまり会えるわけじゃないし、会えた嬉しさより、バレる不安が大きくなってきてる。

レポート仕上げるために、大学の図書館に行きたいのもあって、帰省することにした。



姉貴には顔を見て言えたけど、兄貴とはすれ違ってばかりで、結局はメール。
淋しそうだけど、仕方ないって納得してくれたっぽい返事が来た。


結局、俺と姉貴は、義姉にも甥にも会ってない。
兄貴が愚痴ったのは、あの一度きり。

ただ、予想に反して、家政婦任せかと思ったら、甥っ子にはべったりらしい。
一、二時間置きの授乳もオムツ替えも、全部、自分でやってるって。
兄貴が構わなかった分、甥っ子に集中してるんじゃないかってのは、姉貴の意見。

兄貴は、一応、電話だけは入れてる。
今日は何回ミルクを飲んだとか、顔がどんどん兄貴に似てくるとか。
女が、嬉しそうに報告してくるのに、生返事だけしてるらしい。



「あの分なら、そんなに心配しなくて済むんじゃないかな」

「おにーちゃん、まだ判断下すのは早いってば。
 電話だけじゃわからないんだし、たまにはマンション帰ったら?」


姉貴に諭されて、苦笑いするのを見てて、俺まで息苦しくなる。


理屈や常識では、わかる。
兄貴はもう父親なんだし、子どもには罪はない。

でも、ただでさえ、母親と違って自覚しにくいと思うのに。
嫌いな女が生んだ息子を、自分の子だからって可愛いと思えるか。





大阪のマンションに戻ってから、烈につい零した。
烈は、話終わるまで、じっと聞いてくれた。

そして。


「あのさ、お姉さんは「可愛がれ」とまでは言ってないじゃん。
 親としての責任を果たせって、言ってるだけ。
 殴られたり、ご飯食べさせないとか、そんなことはさせないようにってさ。
 経済的には問題ないだろうしね」


言われて、気がついた。

姉貴は、「可愛がれ」とは、一度も言わなかった。
責任を果たせ、虐待されないように気をつけてやれ、そればかりだった。


「俺は、兄貴が結婚するまでは、ほったらかされてたじゃん?
 それでも、メシや金には不自由しなかったから、文句はない。
 今さら、ベタベタされるのがイヤなだけでさ。
 親父さんみたいにならなきゃ、それでいいんじゃないの?」


ああ、俺も兄貴も、囚われすぎなのかもしれない。

親ってのは、優しくて守ってくれる人、つまり、お袋みたいなもんだって思い込んでた。
でも、親父みたいに、最低のヤツもいるわけでさ。
無理して可愛がっても、烈みたいに、春樹だって気がつく時が来る。

姉貴は、それがわかってたんだろうな。
俺と違って、先々のことまで考えて、兄貴に忠告してたってことだ。



「烈、頭いいなぁ」


感心してたら、烈は呆れたような顔をした。


「ナナは、亡くなったお袋さん、お兄さん、お姉さんと、親が三人いるようなもんじゃん。
 そんで、三人とも大好きで大事だよね?
 だから、俺みたいに、親=生活の面倒だけ見る存在、なんて感覚持ってない。
 そこが違うんだよ。考えなくてもわかる」


人嫌いのくせに、俺よりずっと人のこと見てる。
すっごく意外だったけど、よく考えたら、見てなきゃわかんないんだから当たり前。
俺みたいに、関わらないようにしてるだけじゃないんだ、こいつ。


無意識に、烈のこと下に見てたのに気づいて、俺、恥ずかしくなった。

たぶん、守ってやってるって立場だったからかな。
他の野郎からガードしてたからって、中身まで年下な気分になってたんだと思う。



「ゴメン」

「別に気にしてない」


自分の驕りに気づいて謝ると、烈らしい応えが返ってきた。



その日以来、俺は烈に対してだけじゃなく、昇平や要にも、きちんと向き合うことにした。
姉貴の心配と烈の指摘で、俺がすごくガキだって思い知ったよ。

就職すれば、自動的に大人なれると思ってたような気がする。
それこそ、ガキの思考だよな。

考えればさ、仕事だって一人でやるわけじゃないもんな。
兄貴だって、それがわかってるから、無理してでも笑顔作ってるんだし。

人と深く関わって、ゲイバレするのがイヤだったけどさ。
そんなの、バレる時はバレるし、鈍いヤツだって多いんだから、心配しても仕方ない。

兄貴と姉貴にさえ、バレなきゃいいんだよ、うん。




烈は、俺の変化に気がついたけど、烈自身の態度は変わらない。
相変わらずのマイペースで、自分なりに他人と距離を取ってる。

俺は俺で、露骨過ぎるのもイヤだったから、表面的には、あまり変えてないつもり。
ただ、昇平の提案には、イエス・ノーだけじゃなく、意見を言うようにした。
フォローもするようにしてるし、手伝いも目立たないところではやってる。



「帰省してから、なんか変わったな。
 何かあったんか?」


昇平がニヤニヤ聞いてきたけど、兄貴のことは話せないから、適当に誤魔化しといた。
でも、嘘に乗ってくれただけで、本当のとこは別にあるって、気づいたんじゃないかな。
鋭いヤツなのに、深くはツッコんで来なかった。



昇平と要から始めて、サークルの先輩や同期、学科の同期とも、少しずつ関わるようにしてみた。
俺が出席すると、烈も一緒だから、飲み会にはバンバン誘われるようになった。

ただ、未成年だからってわけじゃなく、ほんとにアルコールダメだからさ。
最初のビールだけ頼んで、後はずっと水飲んで、人が喋ってるの聞いてばっか。
それはそれで面白かったりするんだよな。

女が寄ってくるのだけは、勘弁してくれと思ったけど。
これも修行と思って、我慢した。











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