「True Colors」
無色透明

無色透明 10

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兄貴が出ていったのは、昼三時過ぎ。

それからは、姉貴となんとなく二人で過ごした。



「間に合わないようだったら、電話かメールが来るでしょ。
 一応、昨日のうちに準備してるけど、リクエストあるなら、買い物行こうか」



姉貴の提案で、二人でスーパーへ買い物へ行くことにした。
スーパーって言っても、この近所にはほとんどないから、デパ地下の生鮮食品売り場。


高価すぎない範囲で、姉貴にねだってみる。

マンゴーとか、ライチとか、俺、大好きなんだよね。
ガキの頃は考えられなかったけど、昔ほど高くないしさ。


マンゴーは、兄貴が仕事で沖縄行った時、みやげで買ってきてくれてさ。
この世にこんなに美味いモノがあるのかって、感動したんだよな。
甘くて、独特の匂いがして、柔らかくてさ。

後で値段知って、姉貴と二人で固まったけど。

今は、輸入品もあるし、洒落た店のショートケーキ買うと思えば、あんまり変わらない。



果物売り場で立ち止まったら、さっそく姉貴が品定めしてる。
隣に立って、一緒に選んでたら、姉貴の口癖。


「夢みたいよね」


俺より、ずっと我慢してきた分、反動が凄いんだろうな。
今の環境に浮かれちゃダメだって、いつも言い聞かせてるしさ。


「おにーちゃんが、頑張ってくれたおかげよね」


これも口癖。


年が近い分、俺より、兄貴の性格も状況も理解してきた。

これを聞く度に、心の中で「ねーちゃんも頑張ったじゃん」って、呟いてる。
口に出すと、絶対に否定するの、わかってるから言葉にはしない。




帰ってから、姉貴が晩メシの用意を始めた。
手伝おうとしても、「今日はいいから」って拒否られる。

仕方ないから、リビングで適当にニュース見てた。
そしたら、まだ七時にもなってないのに、兄貴が帰ってきてさ。
疲れた顔してるから、「おかえり」だけにしといた。



兄貴が着替えて、晩メシもできあがって、昨夜より、もっと豪華。
出かける前、少しだけ暗かった兄貴の顔も、晩メシを前にして明るくなってた。


いや、明るく見せてる、が正解なんだろう。
俺たちに心配させないように、そればっかり考えてる人だから。


俺も姉貴も、甥っ子のことは、一切聞かなかった。
兄貴が話したくなったら話すだろうし。



沈黙が怖くて、ただひたすら喋り続けた。
別に、暗い雰囲気でもないのに、なんか怖かったんだよな。
姉貴は、俺が不安なのに気づいたのか、相槌打って、話に乗ってくれる。



兄貴だけ、ビール飲んでて、姉貴は飲めない。
俺も姉貴と同じで飲めないから、二人でウーロン茶。

兄貴だって、そんなに強くはないから、缶ビール二本でちょっと酔ってきたぽい。


「みんながさ、俺にそっくりだって。俺には猿にしか見えないのに」


酔ってなきゃ、こんなこと言わないよな、うん。

どう返していいのか悩んでたら、姉貴が兄貴の背中を撫でる。

そして、諭すようにゆっくりと話しかけてた。



「生まれてきた以上、父親にはならなきゃね。
 あの人のことは嫌っても仕方ないとは思うよ、でも、子どもは何も知らないんだもん」

「わかってはいるんだよ。でもさ、俺の家族は、ちぃとななだけなんだ。
 一緒に子育てなんか、できるわけない」

「どうせ、あの人も今まで通り、家政婦任せなんでしょ?
 すぐに仕事復帰するって、話してたじゃない。
 虐待とか放置とかにだけは、注意してあげて」



兄貴が、ぐっと詰まった。

そう、ここで知らん顔してしまえば、俺たちの親父と同じになってしまう。


あんなに嫌ってた親父と。



やっぱり、いろんなこと考えてるよな、姉貴は。
俺なんか、相手の女が勝手に育てるんだろ、ぐらいにしか考えてなかったよ。

親父には、殴られた記憶しかないもんな。
幼稚園児の俺でさえ、機嫌が悪いと殴られてた。

兄貴や姉貴は、もっと殴られたり怒鳴られたりしたんだろう。
姉貴は、ババァにもいじめられてたしさ。
親父は、それを止めもしなかった。


今ならわかる。ババァも酷かったけど、一番の敵は親父だ。
自分のことしか考えず、浮気して、お袋追い出してさ。

再婚したからって、兄貴のことはお払い箱って、どれだけ勝手なんだよ。
お袋の葬式にさえ、顔も出さなかったし。



「父さんと同じことはしたくないなぁ...」


兄貴がふらりと立ち上がった。
ぼそりと呟いて、自分の部屋へ入っていった。


その背中は、いつも見てる頼もしい兄貴じゃなくて。
弱りきって痩せて、ゆらゆらしてるように見えた。





「あんたは心配しなくていいから、自分の進路はしっかり考えなさいね」


兄貴の背中を見送った後、姉貴は俺に真剣な顔して言った。


姉貴は、どうするつもりなんだろう。
疑問がそのまま口をついて出た。


「会計士の試験に合格できたら、先輩がいる監査法人に就職できる。
 今年度は無理かもしれないけど、来年度には合格してみせる。
 ただ、保険で一般企業にもエントリーシート送ったりはしてるよ」

「士業って、やっぱり強い?」

「まぁ、女だからね。資格職の方が、将来もあるんじゃないかな。
 体力的に男の人には勝てないし、今は就職難だしさ。
 東大卒の女は使いにくいとか、敬遠されるって話もあるぐらいなんだよ。
 外資でも、日本人が多いところは、結構、差別があるって言うし」

「あー、そんなもんなのかぁ。俺、どうしようかなぁ」

「まだ大学入ったばかりだから、実感ないとは思うけどね。
 いろんな仕事を調べてみたり、いろんな人と関わったりするのは必要なんじゃない?」



俺、ドキッとした。
他人と関わるのがめんどくさいって、姉貴にバレてるのかと思って。


「あんたは、おにーちゃんと似てないようで似てるから。
 無理はしなくてもいいけど、人間、一人じゃ生きていけないんだよ」


あ、やっぱり、バレてる......。


「だから、サークルに入ったのも、固定でバンド組んだのも、嬉しかったなぁ。
 烈君とも共同生活できてるしね。
 面倒なことから逃げてると、いつか大事な場面で何もできなくなる。
 おにーちゃんは、逃げなくても、足元すくわれたけどね」



兄貴の部屋の方を向いて、姉貴が小さくため息を吐いた。




俺の心配させてる場合じゃないよな。
自分のことも兄貴のことも、一生懸命なんだもん、姉貴。


「大丈夫だって。俺だって、少しはマシになってきたんだよ。
 ただ、焦るのはマズい気がするから、じっくり考えたいんだ」


口先だけでも、とりあえず安心してもらいたい。

じっと姉貴の目を見て、頑張って、演技してみた。

どうせ、これもバレてるんだろうけどさ。











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