「Crossroad」
secret party

secret party 12   昌行

 ←secret party 11   健太 →secret party  あとがき

「今日は、集まってくれて、ありがとな!
 ドレスコードはカジュアルの無礼講。
 思いっきり、楽しんでってくれれば、俺たちも嬉しい!」


隣に立ってる英一さんの挨拶から、祝宴が始まった。
祝われてる当事者だから、照れくさいが、そんなこと言ってらんねぇよな。



「まずは、本日の主役、三人から挨拶してもらおうか!
 最初は、俺の大事な弟分、前野上商事社長の斎藤昌行!!」


ポンとマイクを渡される。
人前で喋るのも慣れちゃあいるが、久しぶりだ。
それに、もう社長の顔はしなくていいんだよな。


「どうも、現在は無職の斎藤昌行です!
 社長は無事卒業しました。みなさんのおかげです」

「それだけかよ?まぁお前らしいけどよ。
 その代わり、この後のライブで、ガッツリ弾いてもらうからな!」


会場全体から、温かい拍手が起こる。
おめでとう!の声も、あちこちから。

ああ、ありがてぇな。作り笑いじゃない。本気の笑顔。


和哉の出版祝いと翼の店長就任祝いも兼ねてるから、二人も挨拶。


「皆様のご協力を賜り、無事、上梓することができました。
 非力な私ではありますが、精一杯のことは果たしたと思います。
 今後とも、よろしくご指導ください」

「いつも、Crossroadをご利用いただき、ありがとうございます!
 今、モーニングとランチもやってますんで、お近くにいらした時は是非!」


堅い堅い和哉と、Crossroadの宣伝を忘れない翼と。
ここでも、客の温かな拍手や声援が起きて、二人も照れ笑い。

最初に会った時からは考えられないくらい、和哉の表情は豊かになった。
翼は翼で、成長が著しい。



マイクが修さんに渡って、俺たちはそれぞれ楽器を抱えて、立ち位置に。
準備をする間に、場をつなぐ話術は、見事。
人前で喋るのは、職業柄、慣れてらっしゃるんだろう。
俺と違って、生粋の大阪人でもあるしな。



人前で演るのは、何年ぶりだろうな。
ああ、SMSのインディーズラスト以来だから、もう二十年以上経つか。

不思議と緊張はしなかった。
昨日の朝までは、不安だったくせにな。


やっと、英一さんとの約束が果たせる。
待っててくれた笙との共演も叶う。

それが嬉しくて嬉しくて、緊張なんかしてんのがもったいねぇって。


竜二が参加できなくなっても、笙と折島が加わって、ストレス解消にスタジオに篭ってた。
笙がドラムに回ってくれて、ベースを弾く機会も増えた。

健太が学校に行ってる間は、暇つぶしに指慣らしもしてたから、腕はそれほど鈍っちゃいねぇはず。



SMSのインディーズ時代の曲を、元のアレンジで。
そこに、英一さんは、キーボードやストリングスをはめ込んだ。
今回のパーティが決まった時、英一さんが、まず考えたのは、元アレンジを残して、どう膨らますか。


『お前がいた頃のままに演奏してくれ。そこにかぶせる』


お互いに迷惑をかけたと思い込んで、遠慮しあってた時期があった。
吹っ切れて、何のわだかまりもなくなったと思いこんでたが、その言葉で気がついた。


英一さんには、まだ少しだけ傷が残ってたんだってこと。

たぶん、俺がインディーズラストで、まともに弾けなかったから。

だが、それも、うっすらとしたもんで。
このライブが成功すりゃ、ぶっ飛んでくんじゃねぇかと思う。

笙もそれに気づいてたから、あんなに必死に準備してくれたんだろう。


一曲だけは、健太の方が巧いのは悔しいがな。
健太の癖やスキルを考えて、怜が作った曲だから、仕方ねぇっちゃ仕方ねぇ。
顔に出さねぇようにしねぇと、健太が不安がる。

プロの人らが、事前に練習したほどの難曲でもあるしな。
作った本人は、自覚がねぇのは笑えたけどよ。




「さて、新旧メンバー揃ってのSMSに、関西アマバンドの雄、SOLD OUT。
 弦屋カルテットに、この会場一番の男前、及川笙と旦那の折島要が加わりました。
 総勢十四名のライブをお届けします。どうぞ、お楽しみを!」


修さんの紹介に、それぞれ頭を下げた。

笙と旦那の時には、笑いが起こったが、本人たちはどこ吹く風。
オマケみたいに紹介されても、折島は穏やかに笑ってやがる。

尻に敷かれてるようで、実は主導権握ってるのは折島なんだよな。
あの笙が、「器の大きさと冷静さでは負けてる」って、言い切ってたくらいの男だ。
まさか、怜の担当になるとは。世間は狭いって、ほんとだった。



最初からの三曲は、SMSのインディーズアルバムから、ミドルテンポの曲。
そのうちの一曲はデビューシングルで、思い入れのある曲だけに、力が入る。

インディーズ時代と同じように、宗次郎さんがヴォーカルで、吾市さんはギターのみ。
涼が、吾市さんの隣で、嬉しそうに合わせてる。

怜と折島は、宗次郎さんの近くで、サイドギターとコーラス。
この二人の歌と声質は、プロの宗次郎さんに負けてねぇんだよな。

笙はと見れば、英一さんと二人で並んで鍵盤叩いててよ。
普段からは考えられねぇくらい、ニコニコニコニコしてやがんの。


Quiet Lifeのお約束を一曲、これは怜と折島がメインヴォーカル。

吾市さんが、普段とは違う、バリバリに派手な音出してて、ついルイさんを思い出した。
隣で負けじと涼が掛け合いしてて。
俺と健太も近づいていって、Quiet Lifeのステージみてぇに、派手なアクションで弾き続ける。


宗次郎さんが煽りで動き回ってて、それが不思議な気がした。


俺の中で宗次郎さんは、ずっとセンターで。
自分が歌うことが一番で、客を煽るのは、俺や吾市さんの役目だったから。

俺が抜けてからのライブは、何度も行ってて、今の宗次郎さんは見てわかってる。
なのに、いざ、隣に立ってみると、違和感が半端ねぇ。


ああ、俺、インディーズの頃に、半分くらい意識が戻ってんだ。

全部じゃねぇのは、健太を気にしたり、怜の足を心配したりしてっからか。


いよいよ、怜の曲。

シャウトから始まって、リハでは抑えてた、怜と涼が全力で走る。
キーボードの方を見ると、英一さんと笙が、声は出さずに爆笑しながら、軽快にキーを叩いてる。
新治さんも、最初にこいつらと演った時とは違う、しっかり変拍子もブレずに、正確にリズムを刻む。


楽しくて楽しくて楽しくて、な。
客の存在なんか忘れるくらい、みんなで音を作ることに入り込んだ。

自分の音と健太の音が、新治さんと息を合わせて、全体を支えてる。
全身で、音を作って感じて、それが、堪らなく楽しいんだ。


ラストは、再会した夏フェスでも演ってた、インディーズ時代のバラード。
俺もコーラスに参加して、ほんとに時間が戻ってきたような気がしたんだ。


ウィンドベルの音が場内に響いて、次第に音が消えていった。

それが終了の合図。


歓声と拍手で、一気に現実に引き戻される。




「みんな、おつかれ!良かったで!!」


修さんが声をかけてくれて、全員でお辞儀。
また着替えるために、用意された控室へ移動した。



「楽しかったぁ!!」

「巧くいったな!」


みなが口々に感想を言い合ってる。

こういう時に一番はしゃぐ涼は、怜を座らせて足を見てる。
ほんとに、お前、大人になったよな。


「ん、大丈夫っぽいね。シャワー浴びるでしょ、介助するよ。
 俺も汗だくだしさ」

「ああ、頼む。こういうとこのは、手すりとかないしな」


そんな会話を聞くまでは、怜の足をチェックすることも忘れてた。
普段とは違う動きだ。異常があっても、おかしかねぇよな。

反省しなきゃなんねぇところだが、今日だけは甘えさせてもらうぜ。
ここで、俺が心配しても、お前らは、逆に気を遣っちまうだろ?



「心配せんかて、今日は要がおんねんし」

「簡単な修理用具は、持ってきてますよ」


混雑を避けるためか、先にシャワーを終わらせた、笙と折島が、近づいてきた。
大荷物だと思ってたが、そこまで考えてくれてたのかよ。


「怜さんのことがあるから、旦那も参加させたかったんよ。
 それ言うと、みんな、気ぃ遣うから黙っててん。
 怜さんたちには、内緒にしといてな」

「このところ、時間があれば、練習やってたみたいですからね。
 少々、心配してましたが、やはり、怜君は自分の状態をよくわかってます。
 何事もなく済んで、本当に良かった」


礼を言おうとした瞬間、笙に機先を制された。
さすがに、特技・剣道二段なだけあるよな。


「私たちが、自分の判断でやったことやからね。
 お礼なんか要らんよ。
 それより、はよ着替えて、会場に戻らな。
 主役やねんから、お客さんほったらかしは、あかんやろ?」


笙の視線の先には、健太が立っていた。
演りきった充足感か、顔が上気してやがる。


「ああ、お前の言う通りだ。俺たちも、急いでシャワーと着替え、やんなきゃな」

「もう英兄も戻れそうやし、うちらで会場は回しとく。
 心配はいらんけど、のんびりもあかんよ?」


ニヤッと笑って、笙が旦那と連れ立って、会場へ戻っていった。



俺は早足で健太に近づいていく。


「自分で演るのもすっごく楽しかった!
 でも、昌行のステージ姿が見たかったって、子どもの頃の夢も叶っちゃったのが、一番!」


まだ、少しだけ興奮気味に、健太が何度もそう繰り返す。
それを見ていて、演ってよかったと、心の底からしみじみ思った。



会場へ戻ると、機材は撤収されてて、少し広くなった空間。

壁には、ビジョンで、さっきのライブが映し出されてた。
音がないのは、客の会話を邪魔しない配慮だろう。


俺たちが戻ってきたのを見つけた、英一さんが近寄ってきた。


「録音録画は厳禁、じゃなかったんですか?」


軽くふざけて聞いてみたら、いつもの片頬だけの笑い。
ただ、その目には、うっすらと涙が浮かんでる。

俺も泣きそうだけど、必死で我慢。
ここで泣いちまうと、止まんねぇ気がするんだ。




「バーカ、主催が録るのはナシとは言ってねぇだろ?
 いつか、和哉に「SMSの軌跡」を書いてもらわなきゃだからな。
 これは資料として、永久保存だっての」


そして、ボソリと俺だけに聞こえるように呟いた。


「やっと、約束果たせたな」



















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