「Crossroad」
secret party

secret party 4   和哉

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「あと一ヶ月、いよいよだね」


金曜の夜、いつものように、北川を中心に仲間が集まった。
翼は、昼の勤務を終えて、一度帰宅している。

白いシャツ、黒いボトムから、桜を思わせる薄いピンクのポロシャツとジーンズに着替えた。

夜は、店の人間ではなく、客として訪れる。
着替えなければ、どうしても、働いている意識が抜けないらしい。


「渡辺さんの慰労会の手配は、もう済んでます。
 帳簿も、この半年で全部エクセルに入力しました」


北川と原田が、翼を頼もしげに見た。



翼が、専門学校を卒業し、Crossroadに復帰して、五ヶ月が経とうとしている。

調理師免許を取得し、渡辺に太鼓判を押されて、もうすぐ翼は「喫茶・Crossroad」の店長となる。


その直後に、自分が編著者となった「Quiet Life あるバンドの奇跡」が発売される。

英一と及川に促されて、関係者へ配布するため、謹呈のカードを作成した。

気恥ずかしい思いはあったが、フリーとなって初めての仕事であり、協力者は何人もいる。
本来なら、手渡して礼を尽くすべきだ。
それを、郵送で済ますのだから、カードを作成する程度のことで躊躇してはいられない。




「昌行の社長交代と、翼の店長就任と、和哉の出版祝い。
 すっごく楽しみだよね。笙ちゃんがいろいろ動いてくれてるんだって?」

「ん、ほとんど俺と笙で、話進めてる。
 あいつ、やっばり実務能力高いよ。進行管理とか完璧だしさ」


英一の言葉に、その場の全員が頷いた。
及川の実務能力の高さは、周囲から聞いてはいたが、今回の祝いの件で改めて感嘆した。
自分が思いついた時には、三手どころか、五手十手先に、もう話は進んでいる。

他人の感情を忖度することなど、コミュニケーションスキルが低いのは自覚している。
しかし、事務処理や情報を収集し取捨選択する能力などは、大学でも勤めていた出版社でも評価されていた自負がある。

それでも、及川には足元にも及ばないのだ。






「翼が始めたモーニングとランチも、とても評判がいいんだよね。
 時間内ギリギリでも、きちんと対応してるのに、材料は無駄になってないしさ。
 ほんと、俺も運がいいよ。ここの跡継ぎにピッタリの人材に出会えるなんて」


北川が褒めると、翼が照れて頬を染める。

来年には、三十になる。
相変わらずの可愛さに、自然と顔が綻んだ。



「いえ、昼の部で余った食材は、夜につまみとして出せるようにしてるだけです。
 甲斐さんと健が、上手く捌いてくれるから、無駄になってないだけで」

「そこまで考えて、メニュー決めてるんやろ?
 甲斐さんとの連携も見事なもんや。ほんま、瑛士に感謝やな」



瑛士...もう、その名を聞いても、自分も翼も動揺はしない。
南方は、この春帰国し、再び名古屋での勤務を開始した。

出張で来た時に、原田と北川に引き合わされ、挨拶を交わした。



『負け惜しみに聞こえるだろうけど、君には感謝してるんだよ』


自己紹介の後、南方は自分に向かって、堂々と言い切った。
隣にいた翼へは、「幸せそうで本当によかった」とも。


三年の予定が、プロジェクトの進行が順調で二年半に短縮された。
その間、インドで、ずっと考え続けた。
自分が、どれだけ他人に対して、尊大で思いやりがなかったかを、痛感したと話していた。


『外見にこだわるゲイは多い。でも、それだけじゃダメなんだって、翼に教えられたよ。
 実際、自分だって年を取って、容姿が衰えてくるのを日々感じている。
 体力だって落ちてきて、健康面で不安も出てくる。
 そんな時に、そばにいてほしいと思うなら、自分の都合だけ押しつけてちゃダメだよな』


そう話した後に、原田から「やっとわかったんか」と、半ば呆れたように言われていた。


二年半のインド暮らしで、南方の体型は崩れている。
翼が見せた画像からは、信じられないほどの、いわゆる中年太りだ。

仕事が忙しく、ジム通いもままならない。
食事は、外食か、雇いの料理人が作るインド料理。
ストレスのせいか、過食気味になり、みるみるうちに体重が増えていったと、情けなさそうに話していた。


『この前の健康診断にも引っかかったんで、生活習慣を見直しているところです』


北川に「それがいい」と諭されて、南方は帰っていった。
最後に翼と握手して、「いい男になったな」と言い置いて。


翼の感想は、と言えば、「やっぱ、食生活って大事だよな」とだけ。
体型の変わりように驚いていたのは事実だが、口数が少なかったのは、自分に気を遣っているからだろう。
握手された時に、少しだけ複雑な表情をしていたのは、見なかったことにしておいた。







「俺も何か手伝いてぇのによ。
 英一さんも駿さんも、さっさと聡志さんと話進めちまってさ」

「俺だってそうだ。笙さんが、全部先回りしてくださって、カード作りだけ。
 斎藤さんだけじゃなく、俺たちの祝いも兼ねてるから、黙って祝われてろ、だそうだ」



マンションに戻り、二人で風呂上がりに話す。

ありがたいと思う反面、自分も斎藤の祝いなら、力になりたい。
思いは同じだと言うと、翼が嬉しそうに抱きついてくる。


「和哉だって、そう思うよな......ただ、わかってんだ。
 昼の仕事に慣れてきたとは言え、店長成り立ての新米だろ?
 両立しようとテンパらないように、気を遣ってもらってるってのはさ。
 下手に抱え込んで、仕事に影響したらマズいって配慮だろ」

「ああ、俺も同じだと思う。書店回りはしなくていいとは言われてるが。
 音楽雑誌の取材が何件か入ってる。
 奈津さんがフォローしてくださるとは言え、取材される側になるのは初めてだ。
 パーティは発売直後だから、忙しいだろうと考慮してくださったんだな」




そう言えば、と、昼間に英一と会った時のことを思い出した。
翼に渡せと言われていたことを、うっかりと忘れていた。

会社員時代から使用している、アタッシェケースから、封筒を取り出した。
翼に渡すと、すぐにレターオープナーで丁寧に開封している。

中身を確かめると、翼の顔が、途端に輝いた。


「これ、BANZAI-SANSHOとSMSが両方出る、フェスのチケットじゃん!」


嬉しそうにチケット二枚を見せてくる。
同封されたメッセージカードを読んで、少し面白がっているような笑顔になった。


「あいつら、怜さんと涼さんのミニライブで、すっげ凹んだみてぇ。
 猛練習したから、是非、成果を聴きにいらしてください、だってよ」

「あのライブは、音楽に詳しくない俺でも、凄さがわかるくらいだったからな。
 プロとしては、相当なショックだったんじゃないか」

「そこで負けてねぇとこが、カイとカンだよな。
 気弱そうに見えて、カイもかなり負けず嫌いっぽいし。
 アコースティックライブは、試験と重なって行けなかったの残念だったけどよ」



日程を見れば、二週間後の日曜日。
翼は定休日で、自分も取材などは入っていない。

英一に確認して、送ってきたのだろう。
他にも、その二組が出演するイベントはあったはずだ。



「笙さんたち、パーティの準備に、休みを使っちまったらしいもんな。
 一緒に行けねぇのは残念だけど、二人でライブってのも、たまにはいいよな」


確かに、SMSのライブには、いつも北川と原田が一緒だ。
他のライブには、あまり興味がないのをわかっているから、翼は大樹と誘い合って行く。


「ああ、デートで行くのも、楽しみだな。
 ノートには書いてないのか?」

「田舎モンのガキに、そんな発想、あるわけねーだろ!
 わかってるくせに、聞くなっての!!」


デートという言葉に照れるだろうと、わざと言ってみた。
予想通り、翼は、顔を真っ赤にして顰めている。



その顔も、可愛いんだよなぁ。
やりすぎると、すっごく怖いんだけど。 











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