「Happiness!」
二十四時間

二十四時間 3

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長期オフもあっという間に終わっちゃって、ライブアルバムの制作開始。
合間に、雑誌の取材や音楽番組への出演もある。

よほどのことがない限り、バラエティには出演しない。
それはレンさんの指示でもあった。


『テレビ慣れすると、変な色が付いちゃうからね。
 それに、今の君たちの購買層は、あまりテレビを見ない世代だしさ』


俺たち自身、地上波を見る習慣がない。
親父たちが出た時くらいで、ずっとMTVやCNNしか見てこなかった。

カオルの家も、おじさんがニュース、おばさんがドラマを見るくらいらしい。
カオルとカオリさんも、BSやCSでワールドニュースや音楽番組を見るくらいで、地上波はあまり見ないまま育った。


レンさんたちが現役の時、特に全盛期は、メディアの中心はテレビだった。
音楽番組もたくさんあったし、顔を売るために、売れない間はバラエティでも出てた。

SMSのデビューくらいまで、テレビはメディアの王者だった。
ただ、音楽番組は減って、売るためにはタイアップが必須。
実際に、2ndはCFやドラマに使われてたって。

いち早く、ネットの重要性に気づいて利用してたのが、SMS。
公式アカウントを作り、新曲のMVを流す。
今では当たり前のことを、SMSは他のバンドに先駆けてやってたって。




四人で雑誌の取材を受けた後、遅いランチを取ろうとカンと話した。
ロウとカオルは、カナのことがあるから、すぐに帰る。

インタビューに指定されたのが渋谷だったから、久しぶりに昼のCrossroadへ行くことにした。

なんだかんだと夜は来てるけど、昼は滅多に来れない。
俺たちは、レコーディングや練習を、昼間にやるから。

カナのことを考えて、俺たちの仕事はなるべく夜には入れないようにしてるんだ。



Crossroadは、ツバサさんが店長になってから、ランチを出すようになってる。
メニューは二種類だけ。
ツバサさんとバイトが二人の規模だから、スイーツは作り置きできるものしかない。
ただ、コーヒーはこだわってるから、何種類もの豆が置いてある。
注文してから、挽くから、香りも味も最高なんだよ。



「いらっしゃいませ」


学生っぽいバイト君が、すぐに対応してくれる。
カウンターの中で作業してるツバサさんも、気がついてニッコリ笑ってる。


「おう、珍しいな。今日のAランチは、タンドリーチキンとナンのセットだ」


コーヒーの香りを殺すから、カレーは出さない。
それでも、たまにリクエストがあるらしくて、ナンと合わせたスパイシーなチキンが出る。
ほんとーに、たまにだから、俺たちはラッキーだ。


「俺、コメ食いたいなぁ」

「ああ、Bランチは、チキン南蛮だ。大盛りでいいな?」

「ギリギリなのにすみません」


俺が頭を下げると、ツバサさんは首を横に振った。


「お前らは客なんだから、気にすんな。
 ちゃんと、時間内は対応できるようにしてるっての」


ランチタイムは、残り十分しかない。
時間を勘違いしてて、まだ三十分あると思ってたんだよね。

ありがたいなぁと噛み締めながら、隅っこのテーブルに腰を下ろした。



しばらくすると、どっちのランチも運ばれてきて、匂いも見た目も最高に美味しそう!

御飯が食べたいって言ったくせに、出てきたナンも欲しそうな、カン。

こうなるのは予想してたから、チキンとナンを半分に分けて、カンの皿に乗せる。
嬉しそうに、カンも自分のチキンと御飯を半分、俺の皿に乗せてくる。


「うわ、美味っ。どっちもチキンなのに、別物みてぇ」

「うん、ナンもサラダも美味しいね。ロウたちも来れるとよかったのに」


自分たちで作るランチや弁当もいいけど、外でランチも楽しいよね。
ツバサさんの料理は、ほんとに美味しいから、今日はラッキーだったな。


腹が減ってて、ガツガツ食べちゃった。
食後のコーヒーを楽しんでると、ツバサさんが言葉に詰まった気配がした。

カンも気づいたらしくて、俺越しにドアの方を見てる。
眉間に皺を寄せて、露骨に不機嫌な顔になった。

カンがこんなになるのは、本当に久しぶりだ。

外では出さないようになって、もう何年も経つ。





「いらっしゃいませ。お久しぶりです」


ツバサさんが、気を取り直して挨拶してる。


「相変わらず、綺麗な顔してるね」


声で、それが誰なのかわかった。

カンが不機嫌になった理由も。


トーイだ。


俺たちが来るようになってから、ここには寄り付かなくなったって聞いてたのに。
夜ならまだしも、昼間に来るなんて、思ってもみなかった。


振り返ると、トーイも俺たちを見てた。
カンが険しい表情してるせいか、気まずそう。


挨拶した方がいいかどうか迷ってたら、トーイの方から近づいてきた。
びっくりして固まってたら、トーイが哀しそうに笑う。



「久しぶり。ちょっとだけ、時間くれるかな」


戸惑ってると、カンがキレそうになってる。

ヤバい。
ここで騒ぎを起こすと、いくら理由があっても出禁になっちゃうよ。

何より、ツバサさんに迷惑をかけるのは、絶対にダメだ。



「どうぞ」


今にもキレちゃいそうなカンを牽制して、トーイに答えた。
カンの隣に移って、俺の正面に座ってもらおうとすると、トーイがツバサさんに声をかける。


「すまないが、二人と話したいんで、個室貸してもらえる?
 俺は、ブレンドで」

「はい、わかりました。川奈、ご案内して」


バイト君が、俺たちのコーヒーをトレイに乗せて、個室へ誘導した。

トーイが慣れた足取りで個室へ向かう。



「何なんだよ、一体」


カンが小声で俺に言う。

俺もわからないけど、トーイの顔がすっごく淋しそうだったから、イヤだと言えなかったんだ。
それに、個室でなら、カンがキレても迷惑はかからなくて済むよね。


「とにかく、ここで騒いだら出禁食らっちゃうよ。
 ツバサさんに迷惑かけるのは、マズいだろ?」


必死でなだめると、カンが少し冷静になった。
普段が普段だけに、キレると手がつけられないのは、変わってないんだよね。

滅多にキレないし、キレるポイントも減ったけど。

やっぱり、トーイのことは、未だに良く思ってないんだ。

それは、俺も同じ。


コウセイを襲ったこと自体は、もう遠い過去だし、コウセイ自身が気にしてないから、俺も考えないことにした。
でも、ハルのことをほったらかしてたことや、ヒトミが入院しても見舞いにも行かないこと。

自分の家族に対する責任を放棄してきたことは、許せないと思う。


だって、なかなか会えないけど、ハルは大事な仲間だからさ。



個室のソファに、カンと並んで座って、正面のトーイを見た。
バイト君が、一度出ていって、トーイの分のコーヒーを持ってくるのを待つ。


待つ間、気が遠くなるほど、空気が重くて。

何時間も待たされてるような気になった。











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