「Happiness!」
山あり谷あり

山あり谷あり 8

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本当に、本当に、あっという間だった。

気がついたら、デビューして八年が経ってた。


俺たちの活動は、カナの成長とともにあったような気がする。

そのカナは、元気にすくすく育って、今はキンダーに通ってる。
ロウとカオルのことは、「パパ」「ママ」って呼ぶのに、俺たちのことは「カイ」「カン」。
カオルのご両親は、「お祖父ちゃん」「お祖母ちゃん」で、ロウ側は「サム」「カレン」。

ロウでさえ、サムとカレンのことは、「父さん」「母さん」って呼ぶんだけどさ。
俺たちが、名前で呼ぶから、真似しちゃったみたい。

まぁ、サムもカレンも気にしてないから、いいのかな。


キンダーに入ってからは、カレンとカオルのお母さんに預けて、ツアーへは連れて行ってない。
少しずつ夜の仕事を入れて、どちらかの家に泊まるのに慣れさせていった。

その代わり、できるだけ、カナが寝る前に画像通話してる。
ちゃんと、「カナのことは、毎日考えてるんだよ」って、伝えたいんだって。

カナの方がケロッとしてて、ロウの方が淋しそうなのは、まあ、予想通り。
いろんな人が遊びに来たり、事務所にも連れて行ったりしてるからか、カナは人見知りしない人懐っこい性格。
それに、普段は、カオルもロウも、たっぷりの愛情を込めて接してる。


『身近な人に愛されている』


そう感じていれば、子どもは不安定にならないって、サトシさんが言ってたけど、ホントだと思う。



仕事の方は、まぁ順調。

音響関係は、俺。
総合的なプロデュースは、ロウ。

レンさんに、必死に食らいついて勉強して、なんとか合格点をもらえるようになった。
REALとは、交代でツアー、新譜発売のスケジュールも定着してきた。

親父たちは主要都市でアリーナツアー、俺たちは、もう少し広げてホールツアー。

そんな感じだけど、チケットは完売してるし、食べる分には充分過ぎるほどの収入がある。
だからって、浮ついて贅沢はしない。
余裕がある時は、チャリティにも出演してるし、匿名で募金もする。

金をかけるのは、ギターや機材、衣装だけって、決めてるんだ。
まぁ、それが贅沢なのかもしれないけどね。



今年は俺たちがツアーを演って、その最終日。


ステージの上で、終盤に差し掛かった時、エフェクターペダルを踏む左足に違和感を覚えた。

踏んだのに、きちんと踏めてないような感覚。
音が変わってるから、踏めてるのはわかったけどさ。

なんだか怖くなって、なるべく右足で踏むようにして、最後まで演りきった。


アンコールも終わって、違和感は続いたまんま。
シャワーを浴びた時に、その部分を触ってみる。

左足の裏っかわ、中指の真下が部分的に痺れてる。
触ってるのはわかるけど、他のとこより、なんとなく反応が鈍いんだ。


慌ててシャワーを終わらせて、体を拭いた後、全身を確認してみた。
手はもちろん、首や肩、腰、背中、足。

他には、おかしなとこはない。

ただ、左足の裏だけ。

それでも、あの悪夢を思い出して、吐き気がする。
手が、指が動くことを、何度も確かめた。



戻ってこない俺を心配して、カンが迎えに来た。


「どうしたんだ?体調でも悪いのか?」


カンの声を聞いて、気が抜けたのか、いい年して泣きそうになった。
そんな俺を見て、カンが青ざめてる。


「え、マジで体調悪いわけ?どこだよ?」

「...足の裏が痺れてるんだ。あの時の左手みたいに」


俺の答えに、カンが息を飲んだ。


俺でさえ、完全に忘れてた、あの悪夢。

それが蘇って、カンも大きな不安が押し寄せたんだろう。


「明日、朝一で病院行こうぜ。
 今度は足だし、またコロッと治るかもしんねぇじゃん!」

「......うん」



情けないけど、そう言うのが精一杯だった。
その時の俺は、あの時調べたことが、頭の中をぐるぐるしてたんだ。


原因不明の麻痺が起こるのは、そんなに珍しくないってことや。
体のあちこちに麻痺が起こる、「突発性麻痺症候群」なんて病気があること。





「とりあえず、仕事には支障がないから、まだロウとカオルには内緒ね」


カンに背中を撫でられて、少し落ち着いたのか、やっとそれが言えた。

もしかしたら、今度のは原因がすぐにわかるかもしれない。
それに、足の一部分、それも狭い範囲だから、ギターを弾くのには問題ない。

カンに頼みながら、なるべく明るく考えてみた。

真っ青だったカンの顔も、俺が落ち着くに連れて、元に戻ってくる。



「ん、約束する。言う時は、お前からな」

「ありがと」


短い会話だけど、カンが俺を心配してることと、それでも俺の意志を尊重してくれるのが、充分に伝わってきた。

生まれた時からそばにいて、ステディになってからは、もう十二年。
一緒に住むようになってからだって、もう六年近くになる。

お互いの性格を知り尽くしてて、歩み寄ったり、成長しようと頑張ってきた。
だから、すぐにカンは理解してくれたし、俺も取り乱したりはしなくて済んでるんだと思う。


その夜の打ち上げは、いつもと同じように、スタッフさんにお礼を言って、明るく過ごした。

合格点をもらってからは、レンさんも同行していない。
ただ、ラストはライブDVDの撮影をしたから、チェックしてもらうことにはなってる。



ラストは、二度目の武道館。
五周年で初めて演った時の、緊張感と感動を思い出す。


カナのことがあっても乗り越えられたのは、周りの人たちのおかげ。
そして、ロウとカオルが、感謝を忘れずに、自分たちも必死で努力したから。

二世バンドって言われることも、かなり減ってきた。
親父たちとは、音の方向性が全く違うからだと思う。

どっちかと言うと、SMSの方がまだ近い。
でも、SMSは「ツインヴォーカル・ツインギター」でラップは一切やらないからか、似てるとはあまり言われない。


レンさんとエイチの読みは、全て当たってたんだと、振り返ってみては感心する。


これから先は、全部をSMSみたいに、セルフプロデュースで頑張ろうって話し合ったとこなんだ。

そんな時に、麻痺が起こったことは偶然なのかな?
俺、神様って信じてないけど、もしかしたら、「慢心するな」って警告なのかも。


今日は、メインのギター三本をスタッフさんにお願いして、家に帰った。
不思議そうな顔されたけど、カンも同じこと頼んだから、空気を呼んでくれたのか、何も言われなかった。

いつも、ラストは自分で持ち帰って、「ありがとう」を込めて手入れしてる。
カンも同じ。
それが、ツアー終了の儀式みたいになってたんだよね。

一生懸命に抑えてるけど、心の底に不安の渦が出来上がっちゃっててさ。
下手にギターの内部を触って、失敗したりしたら、後悔しそうなんだ。

三本とも、大事な宝物なんだよ。




もう、十七の時の俺じゃないんだ。

そう言い聞かせても、気を抜くと、不安でいっぱいになってくる。
カンが淹れてくれたデカフェを、一口飲んでは、深呼吸してみる。


「とにかく、今日はもう寝ようぜ。
 明日の病院は、一緒についてくかんな。
 イヤだって言っても、絶対だ」


カンが、後ろから抱きついてきて、肩から首にかけて、じんわりと温かくなった。











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